まず、写真をご覧ください。コートは通常の６人制バレーボールと同じものを使用していますが、選手の動作やボールの動きはまるで違います。はっきり申し上げて、フロアバレーボールは通常のバレーボールとは全く世界観の異なるスポーツと言ってよいでしょう。
　ただ、だからといってフロアバレーボールが通常のバレーボールに比べて魅力に乏しいスポーツかというと、決してそのようなことはありません。世界観は大きく違っていても、フロアバレーボールには特有の魅力があります。

　フロアバレーボールは「ボールを床に転がす」競技であるとよく説明されます。確かにそのとおりです。皆さんは「ボールを転がすということは、さぞやテンポのゆっくりしたスポーツなんだろうな。」とお考えになるかもしれません。しかし、それは正しい理解ではありません。
 　フロアバレーボールでは、ボールをげんこつで殴打することで「アタック」をします。実際、思い切り腕を振ってボールを打ってみると、放たれたボールはなかなかの速度で地を這います。「転がる」という言葉ではゆっくりした印象を与えがちですが、実際のところは「ボールが地面を駆け抜ける」と言った方があっているように思います。
　ボールの速度を測定したことはありませんが、トップレベルの試合になると、健常者の目をもってしてもボールを追い切れないことがあるほどです。しかも、相手の前衛が数メートルの距離からフルスイングでアタックを打ってきたら、目で見ていてはレシーブが間に合わないこともあります。このように、フロアバレーボールにはかなりのスピード感があります。

　どんなスポーツでも言われることですが、単に個人の身体能力が高くても、戦術なくしては試合に勝つことは難しいでしょう。フロアバレーボールにも、それがあります。
　フロアバレーボールでは、後衛選手の中に司令塔となる選手がいることが一般的で、その司令塔が他の後衛選手やアイマスクをつけた前衛選手に対して指示をすることで組織的に行動します。前衛のブロックを適正な位置に動かして相手の攻撃を防いだり、味方同士のパスによって相手の守りのすきを作って効果的な攻撃につなげたりと、その戦術は多岐にわたります。
　フロアバレーボールはコートの面を使ってボールをやり取りする、いわば「二次元の球技」なので、空間を使って三次元の世界で戦う通常のバレーボールに比べると、難易度が低そうに思われがちです。確かに、はじめのうちは二次元であるがゆえに目の見える人にとってはやりやすいスポーツであることは言えます。
　ただし、だからと言って目が見えればすぐに上級者になれるかというと、それほどフロアバレーボールは容易なスポーツではなく、やりこむほどに奥の深いスポーツです。その奥の深さは戦術にこそあると言え、それを体感していただくためにも、ぜひとも実際にフロアバレーボールをプレイしていただきたいと考えています。
 

　フロアバレーボールは、目の見える人でも見えない人でも、同じコートに立って同じ選手としてそれぞれの持ち味を発揮して戦うことができるスポーツです。
　 とかく、アイマスクをつけた前衛選手は、後衛選手の指示に従うだけの付随的な存在だと思われることがあります。しかし、それもまた正しい理解ではありません。
　前衛選手で上級者になると、聞こえる音や経験から状況を判断し、後衛の指示がなくても主体的に行動して得点に貢献することができます。前衛同士で声を掛け合ってパスを回したり、相手の守備位置を類推して攻撃を放ったりと、活躍の機会はあるのです。あとは選手の努力しだい、ということです。
　後衛選手が後方での攻守と指示を担い、前衛選手が前線での攻守を担う。両者が協力し合うことで強いチームができ、試合に勝利することができます。個性の違う人たちが集まり、互いに補い合って目的を果たす。フロアバレーボールは、こうしたすばらしい世界観を体現することができるのです。